ART LEAP
KAVCでは、2018年より30代から40代の芸術家を対象とした公募プログラム「ART LEAP」を実施しています。「ART LEAP」は、新たな表現の創造と意欲的な挑戦の舞台とし、経験を積んだ作家にとってステップアップの機会とすることを目指しています。そして「ART LEAP」は、作家とKAVCスタッフが密に連携しながら展覧会を創り上げていくことが特徴です。
ここでは、2021年2月の展覧会までの制作過程をレポートで記録していきます。
開催3回目となる「ART LEAP 2020」。7月19日(日)に行われた「展覧会プラン公開プレゼンテーション」最終選考の結果、今年度の出展作家は、蓮沼昌宏(はすぬま まさひろ)に決定しました。早速8月から、蓮沼さんとKAVCスタッフの制作ミーティングが始まりました。
蓮沼さんが最終選考でプレゼンした展覧会のテーマは「特別的にできない」について。新型コロナウイルスの影響により、昨年とは世の中の様子が大きく変わり、これまで当たり前のようにできていたことが特別的にできない状況が続いています。蓮沼さんのプランは、こうした「できなさ」について考えたいという提案でした。
蓮沼さんはこれまで、様々な土地に滞在し、そこでのリサーチを元に作品制作をされています。今回の制作で蓮沼さんは、9月、12月に家族で神戸に滞在し、KAVCスタッフとともにリサーチを行います。今回、特別的にできないことによる「さみしさ」に焦点をあてたいと蓮沼さん。「神戸のさみしさ」「新開地のさみしさ」「故郷のさみしさ」の3つの視点からリサーチを行います。
このレポートでは、9月のリサーチの様子を前編と後編に分けてお伝えします!
9月13日(日)
今年は神戸で震災があった1995年から、毎年開催されていた神戸ルミナリエの開催中止が決まっています。プレゼンの段階から、今年開催されないルミナリエについて、「神戸のさみしさ」の観点で注目されていた蓮沼さん。
“ルミナリエが開催されないということが、神戸の深い部分にアクセスできるヒントになるのではないか?”
“ルミナリエは、震災を経験していない人が、関与しやすい(近づきやすい)ものとしての役割を果たしているのではないか?”
事前ミーティングで出た様々な問いを持ち、リサーチへ向かいます。
ルミナリエの取材を行うための予習として、滞在初日は、防災学習施設である「人と防災未来センター」に行きました。
「人と防災未来センター」では、阪神淡路大震災の当時の映像やジオラマ、展示資料などがあり、震災の様子をいろんな視点を通じて学ぶことができます。当時の人々のインタビューや震災当時の様子の写真や物品、震災が起こってからどのようにして街が変わっていったのか等、詳しく展示されていました。
また、「人と防災未来センター」があるHAT神戸は、復興をめざすシンボルプロジェクトとして、震災後に整備された街です。
夕方には、多くの人がスポーツをしていたり、学校帰りに友達と遊んでいたり、海をみていたり。復興を感じることができる街です。
9月14日(月)
この日は、「神戸ルミナリエ組織委員会」を運営されている神戸観光局の小池聡さんに、ルミナリエについてのお話を伺いました。
開催理念や立ち上げ当時のお話、25年続けてこられた中での変化など、様々なお話を伺うことができました。
震災から1年経たずして開催されたルミナリエは、当時、神戸の人々にとって大きな希望だっただろうと思います。光の点灯の際、手を合わせている人が多くいるという話がとても印象的でした。
今年は残念ながら中止となってしまいましたが、苦情の声はないそうです。開催当初は一回きりの予定だったそうですが、市民の強い希望により継続開催を行うことに決めたそうで、多くの人にとって、思い入れと理解がある行事だと再確認しました。また、神戸だけでなく県外からも多くの人が毎年訪れています。ルミナリエが開催されないことで、とても多くの人が「さみしさ」を感じているのだと実感したお話でした。
その後、ルミナリエが開催される際、光が灯る予定だった街並みを見ながら東遊園地へ。
東遊園地では、慰霊と復興のモニュメント、1.17希望の灯り、マリーナ像などへ訪れました。
三ノ宮周辺の神戸市役所や、元町高架通商店街などへも街歩きしました。
この2日間は、「神戸のさみしさ」について、阪神淡路大震災を中心にリサーチを行いました。
ルミナリエが開催できないことは、どのようなさみしさなのか。さみしさを持つ様々な人の背景を想像する2日間となりました。
「新開地のさみしさ」「故郷のさみしさ」のリサーチレポートは後編に続きます!
(美術アシスタント・中川)