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ART LEAP 2020 | 9月神戸滞在レポート(後編)

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  • 2020.12.23
  • Text: 美術アシスタント・中川

ART LEAP

KAVCでは、2018年より30代から40代の芸術家を対象とした公募プログラム「ART LEAP」を実施しています。「ART LEAP」は、新たな表現の創造と意欲的な挑戦の舞台とし、経験を積んだ作家にとってステップアップの機会とすることを目指しています。そして「ART LEAP」は、作家とKAVCスタッフが密に連携しながら展覧会を創り上げていくことが特徴です。
ここでは、2021年2月の展覧会までの制作過程をレポートで記録していきます。

ARTLEAP2020 9月滞在レポート後編です。
滞在後半は、「新開地のさみしさ」「故郷のさみしさ」に重点を置き、リサーチを行いました。

9月17日

この日は「新開地のさみしさ」のリサーチのため、新開地まちづくりNPOの藤坂さんにお話を伺いました。

「新開地について、“かつては”という話をよく聞く」「新開地について思い出深く話す人が多い印象がある」という蓮沼さん。なぜそのような印象を持つのか、新開地という街ができてからの歴史を説明してくださいました。

新開地はその名の通り、1905年に川を埋め立て、新しくできた街です。当時新開地は神戸の中心地であり、多くの劇場や百貨店などの商業・遊興施設が集まる、「東の浅草、西の新開地」と言われるほどの街でした。ですが戦後、中枢業務機能が三宮へ移転するとともに、劇場や映画館が相次いで閉鎖し、急速ににぎわいを失った街となりました。そうした中で、まちづくり協議会が発足され、新開地はまた再開発されました。神戸アートビレッジセンターもまちづくり構想の一つとして建てられた施設です。

川を埋め立てたという歴史から、街がにぎわっていた頃の話、そして空洞化、環境の悪化から、現在に至るまで、スライドで丁寧に説明してくださいました。新開地は、短い歴史の中で、一大歓楽街から、急激に落ち込んだ街という印象があるからこそ、「さみしさ」を感じる街なのかもしれません。

その後、新開地の街歩きへ。お話を聞いたあとだと、より一層街の見え方が面白いです。

9月19日

「新開地のさみしさ」について、KAVCのスタッフにも話を聞きたいと蓮沼さん。午前中は、柳谷館長代理から新開地についてのお話を伺いました。

柳谷館長代理はKAVCに赴任する以前、兵庫区長を務めていた経歴を持っています。新開地のことのみならず、新開地が所在する兵庫区全体についてのお話を伺うことができました。

印象的だったのは、街のあり方の移り変わりです。近年の兵庫区や神戸市全体では、高齢化によって小学校の統廃合があったり、震災後にできたニュータウンが、今ではオールドタウンになりつつあるという話も。神戸市役所で長年仕事をしていたからこそ分かる、この神戸という土地に住んでいる人の特徴、そしてそれに伴って変化する街の様子について詳しくお話いただきました。

午後からは、湊川隧道へ。

現在流れている新湊川と呼ばれる川は、古湊川、旧湊川と何度か流れを変えています。神戸アートビレッジセンターがある新開地には、かつて旧湊川が流れていましたが、度重なる氾濫と天井川だった影響による交通の障害で、付け替え工事が行われました。湊川隧道は、その際に竣工された日本初の近代河川トンネルです。2000年に新湊川トンネルが竣工されるまで、実際に使用されていました。
現在は、近代土木遺産として保存され、湊川隧道保存友の会によって、定期一般公開や講演会、見学会などが行われています。

現地では、湊川隧道保存友の会の西海さんに隧道のご説明をいただきました。

隧道内はとても長く、独特な雰囲気がありました。この日は一般公開日とのこともあり、多くの人が訪れていました。

この二日間は、「新開地のさみしさ」について、新開地の歴史などを中心にリサーチを行いました。ここで新たに得た、「埋め立て地」や「ニュータウン」などのワードは今後の制作のヒントになりそうです。
また、これからの展覧会に向け、KAVCがある土地について見直すきっかけともなった、スタッフにとっても良いリサーチとなりました。

9月21日

この日は、「故郷のさみしさ」のリサーチのため、午後から海外移住と文化の交流センターの移住ミュージアムへ。一般財団法人日伯協会の天辰さんにミュージアム内を案内していただきました。

海外移住と文化の交流センターは、前回の ART LEAP 2019 の際、日本から南米へ移住する人々についてのリサーチで訪れています。移住ミュージアムでは、写真や資料などを通して、なぜ多くの日本人が南米に移住していたのか、という時代背景や心情を想像することができました。

今回テーマの一つである「故郷のさみしさ」は、新型コロナウイルスで日本にいるまま故郷に帰ることができない、または日本に帰ることができないという「さみしさ」です。前回の ART LEAP2019のリサーチからもわかるように、外国との交流がさかんな神戸では、こうしたさみしさを感じている人がたくさんいます。

「故郷のさみしさ」では、神戸市立王子動物園で2000年から飼育されているジャイアントパンダのタンタンにも注目しています。タンタンは、2020年に故郷の中国へ帰ることとなっていましたが、コロナウイルスの影響で返還日が未定となっています。
この一年、様々なメディアでタンタンを目にすることや耳にすることが増え、街の中にパンダがたくさんいることに気が付くようになりました。王子動物園の最寄駅である王子公園駅にはパンダがたくさん。

タンタンが帰ってしまうと、動物園や駅、街の様子はどうなるのでしょうか。今回KAVCスタッフは同行できませんでしたが、蓮沼さんは王子動物園へもリサーチへ向かわれていました。

また、王子公園駅の近くにある神戸文学館では、企画展「新開地物語 街が青春だったころ」が開催されていました。蓮沼さんは、こちらもKAVCスタッフの同行はなしで、リサーチに向かわれました。(KAVCスタッフも向かいましたが閉館時間に間に合わず、外観のみを眺めて帰りました…。)

9月の滞在では、「特別的にできないさみしさ」について、幅広いリサーチを行いました。
世の中の状況のこともあり、明るい話題ばかりではありませんが、取材を受けて下さった皆様からとても興味深く、共感できるお話を伺うことができました。取材にご協力頂いた皆様、本当にありがとうございました。

新型コロナウイルスの影響で、展覧会や今後のリサーチもどのように進めていけるのか不透明ですが、世の中の状況をよく注視しながら、展覧会制作の準備を進めていきます。
12月の滞在の様子も引き続きレポートしていきます。ご注目下さい!

(美術アシスタント・中川)