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ART LEAP 2020|12月神戸滞在レポート

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  • 2022.1.6
  • Text: 美術アシスタント・中川

ART LEAP

KAVCでは、2018年より30代から40代の芸術家を対象とした公募プログラム「ART LEAP」を実施しています。「ART LEAP」は、新たな表現の創造と意欲的な挑戦の舞台とし、経験を積んだ作家にとってステップアップの機会とすることを目指しています。そして「ART LEAP」は、作家とKAVCスタッフが密に連携しながら展覧会を創り上げていくことが特徴です。
ここでは、2021年2月の展覧会までの制作過程をレポートで記録していきます。

9月の滞在後、蓮沼さんからこれまでの活動を紹介した冊子が届きました!ありがとうございます。
KAVCでも、いただいた蓮沼さんの冊子を読みながら作品についての勉強を進め、月に1、2回ほど、ミーティングを行っています。

展覧会チラシとポスターが完成しました!

今回デザインをしていただいたのは、グラフィックデザイナーの小池アイ子さん。蓮沼さんが展覧会のために描いたたくさんのドローイングを使ったデザインです。先を見通せない状態で、形になるものができたことは、これから準備を進めていく中で大きな支えとなります。見かけた際には是非お手にとってみてください!

12月の滞在では、9月のリサーチとは違った視点から「故郷のさみしさ」について追加でリサーチを行いました。このレポートでは、12月のリサーチの様子をお伝えしていきます!

12月8日

この日の最初は、兵庫県立美術館で行われていた「注目作家紹介プログラム チャンネル11 徳重道朗 ゆきゆきて神戸」を鑑賞しに行きました。

この展覧会は神戸にまつわる水をテーマにしたもので、展示の中で登場する新湊川や湊川隧道は、蓮沼さんが9月の滞在でも訪れていた場所です。同じタイミングで湊川に注目し作品を制作しているという共通点もあり、とても興味深く鑑賞しました。

KAVCに帰ってきてからは、地下1階のシアターで展示テストを行いました。

今回の滞在では、リサーチだけでなく、アトリエを使って作品制作も進めていた蓮沼さん。テストを行ったのは、アトリエで制作をしていた明かりを用いた作品です。

果たしてどんな展示になるのでしょう?

展示テスト後は、前回のARTLEAP2019でもリサーチで訪れた「国際交流シェアハウスやどかり」へ。オーナーでNPO法人「Oneself」理事長の中野みゆきさんにお話を伺いました。

これまで多くの留学生や技能実習生を受け入れてきた「やどかり」ですが、コロナ禍で1月中旬ごろからキャンセルが出始め、3/15以降、11月まで誰も来ていない状態が続いているそうです。

収入が大幅に落ち込んだことから家賃が払える見込みがなく、やどかりを閉館することまで考えた中野さん。給付金や補助金、クラウドファンディングなどでなんとか持ちこたえたのち、日本にいる留学生の支援を始めたそうです。外部の情報が入ってこない、オーバーステイとなり観光ビザに切り替えた影響でアルバイトができない、国に帰れない、そのため生活ができないという留学生が多くいます。やどかりでは、生活ができなくなった留学生を保護し、食料品の支給や部屋の貸し出しを行っています。

中野さんから伺う留学生の現状はとても壮絶でした。やどかりは、多くの人に必要とされ、頼みの綱になっていることを実感するお話でした。取材を受けた12月には、国際線の便が少しずつ再開し始め、9カ月ぶりの技能実習生の受け入れを行う予定とのこと。

12月9日

この日は、昨日に引き続き「故郷のさみしさ」についての取材です。日本語教師の大和田先生にお話を伺いました。
大和田先生は、前回、潘逸舟さんによる展覧会、ART LEAP 2019「いらっしゃいませようこそ」に向けてのリサーチでもお世話になりました。

大和田先生は、日本語がわからない就学前〜の幅広い年齢の子どもたちを対象に、日本語教室を開催されています。その教室の一つとして、KAVC内の施設もご利用いただいています。「日本語教室と言っても、言語の勉強のみでなく、学校では補えない、日本の生活習慣なども教えている」と大和田先生。「週一回では間に合わない」と取材中何度もおっしゃっていました。ですが、コロナ禍でこれまでのように開催ができないという状況が続いています。

KAVCで開かれている教室は、2020年3月の臨時休館の後から、一度も開催されていません。教室に通っていた人たちからも再開を求める声が多くあるそうですが、感染予防の観点から、再開はまだ難しいようです。「このコロナ禍で、子どもだけでなく、親のケアもしてあげたい」と大和田先生。コロナ禍でも親は仕事に追われ、子どもたちはその間家に1人でいるという状態が、とても心配だったそうです。週一回では間に合わないほど、お互いが必要であると感じているにもかかわらず、やむを得ず開催できない現状をお話いただきました。

2日間という短い時間でしたが、今回は「故郷のさみしさ」に焦点をあててのリサーチ。これまでに想像もしていなかった「特別的にできない」状況が、こんな身近でとても大きな影響を与えている、それは予断を許さない状況なのだと改めて思いました。大変な中、取材にご協力いただきました皆様、本当にありがとうございました。

12月でリサーチのための滞在はひとまず終わり、展示に向けて作品の準備を進めます。

レポートも引き続き行いますのでご注目ください!

(美術アシスタント・中川)