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神戸アートビレッジセンター アートサロン 「森優貴ダンスを語る」を開催しました。

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  • 2017.8.14


2017.08.14
毎回様々なゲストの方をお招きするトークイベントシリーズ〈神戸アートビレッジセンター アートサロン〉。記念すべき第1回目は、ダンサーの森優貴氏をゲストにお迎えし、お話を伺いました。

神戸出身の森さんは、幼いころからダンスに親しみ、国内で活躍された後、ハンブルグバレエスクールへ留学。卒業後数多くのダンスカンパニーでトップとして活躍。2012年9月よりレーゲンスブルク劇場Theater Regensburg Tanz(レーゲンスブルク劇場ダンスカンパニー)の芸術監督に就任されています。これは日本人初欧州での就任となりました。

まずはドイツの劇場についてお話くださいました。「ダンサーは大抵の場合1年契約で、例えば入団してから2か月後に新作公演があり、約15回公演をしながら、同時に次の新作の稽古がある。ある意味会社員みたいなもので、劇場専属ダンサーとして、全ての公演・日々の創作活動に対応できる身体を訓練し、管理していく、自身を研磨し続けて行く責任がある」。ドイツには州立、市立の劇場が多くあり、劇場で働く自分たちには、「劇場文化を死なせない責任、次の世代に残していく責任がある。公立劇場で定められた予算とスケジュール内で作品を創って出すことは、工場で商品を創り、出すことと、捉え方によっては同じであり、ドイツ国内、劇場にダンスカンパニーがあれば、その数だけダンスの芸術監督がいる」のだそうです。
芸術監督というポジションについて、「誰にでもできるものではないし、誰もがやりたいと思うものでもない。出席しないといけない会議はたくさんあり、様々な調整や政治的な絡みも多い。人によっては、時間の無駄とか、がんじがらめであるとか感じることもある。特に振付家という立場もあり、創作活動も同時進行させなければいけない場合は。自分は鍛錬の場だと思っているし、芸術監督として、グループのトップに居る事でダンサーを育てていける、人として育てていける。制限のある方が、自由が広がると思っている」と言います。

また、8/18(金)に神戸文化ホールで初演を控える新作「マクベス」についてもお話頂きました。「シェークスピアは、作品の底辺がしっかりしているから変形しやすいので取り上げようと思った。『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』も検討したが、『マクベス』にある、マクベスとレディマクベスの対等な強さに惹かれたし、野心は現代にも通じるものがあると思った」と言います。「音楽は僕の作品にとって一番重要なもの。ダンスにもメッセージは込めるが、それをわかることは強要できないと思っている。それに対して音楽は直に感受性の部分に入ることができる。音楽には感情があり、舞踊は感情で生まれる一つ一つの動きから成り立っているので、それが合体することで、絶対的なものができると信じている。今回の『マクベス』という作品は特に、物語性があるがセリフがないので、状況や感情をつけるのに、音楽や間のとり方が大切になってくる。あと、目線の変化などで、二人の距離感を表現しています。」

その後は、日本とドイツの違いについてお伺いしました。
日本はよく言えば真面目、悪く言えば神経質な傾向があり、例え自分の不都合も見せないが、海外はそれを隠さないといった性質的な問題から、それぞれのダンス界についてお話が広がりました。
その中で、現在のダンス界、若手のダンサーへの危惧も伺えました。「今の表現者たちは、早く結果を求めるばかりに、持続性がない傾向がある。結果が見えないとなると次の場所を探します。そのスタンス自体はすごく残念な事だと思いますが、それがその人の為になるならいいと僕は考える。芸術監督であっても、ダンサー個々の将来には責任がないし、良い形で送り出す事が、カンパニーと僕へのプラスになる。」

沢山のダンサーやスタッフを抱える芸術監督だからこその苦労も。
「一人一人に気を配り、コミュニケーションをとり、対応をしていかなくてはいけない。それを芸術監督としてどこまで対応するかがとても難しい。それによって不満も出てくる。けれど、森作品に出たいからやる、という気持ちを持ってもらう為には、芸術監督としてしっかりと向き合っていく役割を果たさないといけないところだと思っています。」という森さん。ダンサーであり、演出家であり、そして芸術監督である森さんは、様々なポジションにあるからこそ、見えること、気づくこと、理解出来ることが沢山あり、その細やかさが森さんの活動や表現の評価に繋がっているのではと感じました。

また、「日本のダンス界とは、大分離れてしまっているけれど、今回改めて見てみると、当時僕が見ていた日本のダンス界と変わっていない。また外から見ると日本は、政治や社会情勢、自然災害などとても不安定で不信なイメージもあるけれど、人が凄く疲れている国という印象が年々強くなっている。プレッシャーのかかり方、スピードの速さ、競争・・・それらによって人間性が失われていくのが怖いし、だからこそ、音楽や舞台がもっと発展していかなくてはいけない。その為に、普及や発展に貢献できる劇場がきちんと発信し、また、サポートをして行かなくてはいくかが重要なのでは。」と、海外から見た日本、そこから見える日本の文化普及についての懸念もお話頂きました。

コンテンポラリーダンスというのは、バレエなどのようなイメージがなかなか定着せず、分からないものという認識が先立ち、理解を得られていません。けれどダンスひとつとってもその表現方法や手法、ジャンルは様々あり、それが豊かな表現にも繋がっています。これからの公立劇場は、館の中にとどまらず、社会に、世界にひらいた視点を持つことで、芸術文化の発展を支えていく活動が出来るのかもしれません。
8月18日(金)には、神戸文化ホールにて、森優貴氏が構成・演出・振付、そして出演する公演「マクベス」が初演を迎えます。チケットや公演の詳細は以下からご覧下さい。
https://www.macbeth-tanz.com

ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。
神戸アートビレッジセンターアートサロンは、次回は10月に開催予定です。
ゲストなどの詳細は近日HPなどで発表します。