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KAVCシネマ特集上映

追悼 映像作家・松本俊夫特集上映

2017年8月3日(木)5日(土)

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上映期間 2017.8.3(木) – 2017.8.5(土)
料金 一般1300円、学生・シニア1100円、トークイベントチケット500円
監督 松本俊夫

映像作家としての原点である前衛的なドキュメンタリー映画を撮る一方で、長編劇映画と並行して実験映画を制作し、日本の代表的な実験映画作家の一人である松本俊夫。2017年4月に逝去した松本の作品を特集上映し、劇映画、実験映画、ヴィデオ・アートなど、領域を横断する活動を振り返るとともに、その魅力をご紹介します。
上映作品は、劇場用長編第1作であり、ピーター(池畑慎之介)のデビュー作でもある「薔薇の葬列」、「実写映画化は不可能」と言われた日本文学史に残る奇書『ドグラ・マグラ』(1935年刊行)を斬新な映像美で見事、映画化した大傑作「ドグラ・マグラ」の劇映画2作品に加えて、実験映画10作品を上映します。

上映作品:
◯劇映画「薔薇の葬列」(1969/35mmフィルム)
「ジュネ」のオーナー権田(土屋嘉男)とエディ(ピーター)のめくるめく情事で映画は始まる。
二人の密会を権田の愛人でもある「ジュネ」のママ、レダ(小笠原修)が見ていた。ベッドの中で権田はエディにささやいた。「もう少しの辛抱だ。レダを必ず辞めさせる。そうしたらお前は『ジュネ』のママじゃないか」。幼いエディを残し家を出ていった父。母の手一つで育てられたエディは孤独な少年だった。そんなある日、母の情事を目撃したエディは母を発作的に殺してしまう。ベトナム戦争帰りの麻薬の売人トニーと一夜を共にするエディ。フーテンのゲバラ(内山豊三郎)たちとのマリファナと乱交パーティの世界に引き寄せられていくエディ。
1960年代末期の新宿、六本木、原宿を舞台に、ピーターとゲイボーイたちのコミカルなドラマは血の惨劇へと変わる。

◯「ドグラ・マグラ」(1988/35mmフィルム)
「胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか」
大正末期、精神科病棟の一室で記憶喪失の青年(呉一郎?)が目を覚ます。だが彼に刻まれた
猟奇的体験も秘かに覚醒を待っていた。怪事件の鍵を握る精神科の正木博士が謎の死を遂げ、
法医学教授の若林が呉一郎と向き合う。もつれた記憶の糸をたぐると、やがて先祖の記憶を
孕んだ衝撃の深層が剥き出しになっていく…。

◯実験映画
「銀輪」(1955)
日本自転車工業会の海外PR用短篇。少年の自転車へのあこがれを幻想的な表現で映画化した一種のシネポエムで、日本の実験映画史においても伝説的な作品とされていたが、2005年にオリジナル・ネガが発見された。今回は新たに、松本俊夫監督の監修のもとでデジタル復元を実現するとともに、三色分解した白黒ネガを光学的に合成した版を上映する(復元:IMAGICA、IMAGICAウェスト)

「西陣」(1961)
織工の労働と古い伝統の絡み合いを題材とする記録映画であり、前衛記録映画の実践といえる作品。京都で活動していた「京都記録映画をみる会」の自主上映運動を基盤として製作された。撮影は東宝争議を主導したことで知られる宮島義勇、作中で能『土蜘蛛』を舞うのは観世栄夫。

「つぶれかかった右眼のために」(1968)
1968年に草月アートセンターで開催されたシンポジウム「なにかいってくれ、いま、さがす」で上演された、三台の16mm映写機を使用したマルチ・プロジェクション作品。社会的なドキュメントの断片がフレームの枠を飛び越え、多層的に衝突する。初演の際には、最後に映写機がストップすると同時に、観客に向けて仕掛けられたストロボが強烈な光を発するハプニング的演出も仕組まれた。

「メタスタシス=新陳代謝」(1971)
ダダを意識した便器の映像を、医療用の映像機器によって電子的に加工・変形した、ビデオアートの先駆といえる作品。ここでは濃淡のグラデーションが、濃さのレベルに応じて異なる色相に変調される。グラフコンテに従ってリアルタイムで装置を操作し、最終的にモニターに表示される映像を、フィルムによって再撮影することで完成された。

「モナ・リザ」(1973)
東洋現像所(現イマジカ)に導入されたばかりの映像合成装置であるスキャニメイトを使用して、モナリザの映像を電子的に加工・変形した作品。『スペース・プロジェクション・アコ』の映像が多数引用されている。松本は、当時テレビCMの制作も請け負っていたが、そこでもスキャニメイトを活用した実験を盛んに行っていた。

「色即是空」(1975)
サイケデリックな幻覚体験を、そのまま映画に持ち込んだ作品。般若心経が一文字ずつ、鮮やかな色彩のフリッカーをともないながら五回繰り返される。この反復は、観客をトランス状態に誘導するように次第に激しさを増してゆき、それは眩しい光のイメージに収斂する。

「アートマン」(1975)
河原に佇む般若の面を被った人形の周囲を視点が激しく旋回し、観客に強烈な眩暈の感覚を与える国内実験映画の傑作。人形の周囲をグリッドで区切って、画面サイズと露出のパラメータを変えながら多数のテイクを撮影し、一コマずつ再撮影を行うことで制作された。今回上映する2012年版のHDデジタルデータは、監督立会いの元でカラーコレクションをやり直した完全版と言えるものであり、赤外線フィルムを使用した独特の色彩が、監督の意図に忠実に表現されている。

「エニグマ=謎」(1978)
宇宙空間を思わせる暗闇の中に、様々なイメージが吸い込まれてゆく作品。ここではスキャニメイトのビデオエフェクトを駆使することで、映像をトンネル状に折り曲げて、中心点に向かうイメージの動きが表現されている。

「シフト=断層」(1982)
周回運動とズームによって長回し撮影された九州芸術工科大学キャンパスの映像が、ビデオの合成技術によって横方向に六分割され、徐々にズレながら複雑な関係性を生成してゆく。関係性というテーマが、時間と空間の歪みによって達成されている。

「エングラム=記憶痕跡」(1987)
ポラロイド写真よって撮影された風景が現実の空間からズレはじめ、記憶について語る松本が同じ話を繰り返し、キャンパスの坂を上る学生の数が一人ずつ減ってゆく。これまで追求されてきた関係性のズレや虚実の対比といったテーマを、物語的な制度の内部で展開した作品。この方向は、劇映画『ドグラ・マグラ』における堂々巡りの夢に繋がってゆく。

関連企画:松本俊夫:「映像」の変革
8/3(木)17:10
デビュー作『銀輪』(1955年)から第一評論集『映像の発見』(1963年)の刊行までを中心に、制作と理論の関わりに注目しながら、松本俊夫の映像実践を概説する。
※特集上映を観た人はトーク無料。トークのみ参加の場合は500円
ゲスト:川村健一郎
立命館大学映像学部教授。1970年兵庫県生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。川崎市市民ミュージアム映画部門学芸員を経て、現職。論文に「戦争責任論と一九五〇年代の記録映画」「大島渚とヴェトナム」(ともに奥村賢編『映画と戦争―撮る欲望/見る欲望』森話社、2009年)、「僻地への視線/僻地化する視線 『忘れられた土地』についてのノート」(鈴木勝雄、桝田倫広、大谷省吾編『実験場1950s』東京国立近代美術館、2012年)など。

上映スケジュール
8/3(木)
10:45~12:32 薔薇の葬列
12:55~14:44 実験映画
15:00~16:49 ドグラ・マグラ
17:10~ 川村健一郎教授トークショー

8/4(金)
10:45~12:34 ドグラ・マグラ
12:55~14:44 実験映画
15:00~16:47 薔薇の葬列

8/5(土)
10:45~12:32 薔薇の葬列
12:55~14:44 実験映画
15:00~16:49 ドグラ・マグラ

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