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KAVC FLAG COMPANY 2020-2021 Ahwooo『パンと日本酒』劇評|飯嶋松之助&伊藤駿九郎

2020年11月13日(金)15日(日)

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飯嶋松之助(KING&HEAVY)Ahwooo『パンと日本酒』を観劇して

厳重な消毒と検温。除菌マットを踏みしめて、両手を広げても人に当たらない客席に着席。座席においてある書類に名前や連絡先を記入する。昨今のご時世で観劇する時のニューノーマルになるつつある手続きを終えて始まったのは、これからの世界が迎える可能性のあるニューノーマルでアブノーマルな世界だった。
現場と組織の板挟みでプライベートもうまく行かない中間管理職の先輩と、夢を追いかけてフラフラしている酒浸りの後輩。両者ともとても可哀想な人間で、それ故に憎めない。どこまでいっても残念な2人なのだが、それ故に親近感を覚えてしまい目が離せなくなってしまう。お互いに歩み寄ろうとしても、どうしても噛み合わない。価値観・思想の違いが2人をどうしても引き裂いてしまう。そんなヤキモキした人間関係をひっくり返すように「彼ら」がやって来る。舞台上に現れない、僕らの目に見えない「彼ら」はまるで現実世界を席巻しているウイルスだ。「彼ら」は確かに存在していて、2人を狭い部屋に閉じ込めてしまう。その閉塞感のせいで観ている我々は息苦しくなる。どうしようもなくなった2人の憤りや焦りがぶつかり合う。その緊迫感のせいで観ているこっちは体が強ばる。「彼ら」の足音が聞こえたら2人と同じように息を潜める。「彼ら」が上の階を這いずり回る音が聞こえ、2人が天井を見上げた時に思わず劇場の天井を見上げてしまうほど、僕は客席で観ながら2人と同じ感情に襲われてしまった。2人が残念で可哀想な人間すぎて、演劇作品の登場人物ではなく友人になってしまった。利用されるだけ利用されたら捨てられる人と、酒臭い人。残念すぎるでしょ。僕の友達です。
世に蔓延るウイルスへの殺意や、それに振り回され窮屈になっていく社会や生活の閉塞感。それらの不満をぶちまけるかのように俳優2人がパンクでロックな叫びをあげている。マスクで飛沫は止めれても、その熱意や狂気は止められない。最高に格好いい姿だった。可愛らしい被り物を被った劇団の写真からは想像もつかない光景で、帰りの電車で思い出したら思わず笑ってしまうくらいの落差。それでいてどこかあったかさがあるのが不思議なところ。きっとこの人達は自分のことが好きで、それ以上に人間が好きなんだろうなと思う。どこまでぶつかっても、傷つけられても、結局人間が好き。そんな3人にしか作り出せない世界に触れて、燃え上がるような熱さと包み込むようなぬくもりを同時に感じることができた。この2つの温度を表現できる団体はそうそういない。同じ神戸出身としてとても誇らしい。最大のリスペクトを込めてパンと日本酒で乾杯。

伊藤駿九郎(KING&HEAVY)Ahwooo『パンと日本酒』を観劇して

観劇直前までKING&HEAVYでKAVC FLAG COMPANYのWSを実施していた。そこから会場に移動して初めに目に入ったのは客席と客席の間に設けられたスペース。これが今の劇場の現実。舞台セットは暗がりに包まれダークな雰囲気が漂っており、さっきまでいた空間とのギャップで息がしづらいような気がした。
人類が未知の脅威に晒されている世界。その脅威は「カガチミムス」と呼ばれ、ゴジラのような突然変異で生まれた生物のようであり、コロナウイルスのような人を媒介にして広まる病原菌のようでもあるが、確かな情報はよくわからない。その「カガチミムス」を制御・管理する会社で働いてる先輩と後輩の2人ですら知識が曖昧の様子。何が何だかわからない中、逃げ出した「カガチミムス」に対処しようと右往左往する2人。処理したものの会社の外では知らないうちに惨状になっていて、絶望する2人はパンと日本酒で最後の晩餐を迎える、というところで終幕となった。
どうしようもない脅威に世界が見舞われた時に、人は一体どういう行動を取るのか。私たちは、コロナウイルスの脅威をネットやテレビで知ってはいる。それなりの対策もしている。私自身も出演予定だった舞台が延期や中止になりはしたが、平和に生きている。しかし実際に脅威に晒されたらどうなってしまうのだろうか・・・どうしようもない不安を駆り立てられる作品だった。
そんな劇中世界で、要領を得ない会話をする先輩とサバサバ系で「〜です?」という耳障りな言葉遣いをする後輩とのやり取りが絶妙にリアリティに富んでいて、俯瞰で観ている側には終始笑える掛け合いが秀逸。そこにソーシャルディスタンスのせめぎ合いもあって視覚でも楽しませてもらった。デフォルメし過ぎず、観る者を飽きさせない牧野さん、如月さん演者おふたりの演技が作品の説得力をさらに強固にしていた。
今年の4月以降、舞台の配信やオンライン演劇が数多く行われるようになった。これからは生と配信の両方をやるのがスタンダードになるだろう。この作品も配信をされていた。配信でも充分楽しめる作品だと思うが、舞台を愛する1人の人間として、やはり生の舞台観劇が1番エキサイティングなものであると思う。『パンと日本酒』はソーシャルディスタンスが保たれた客席で観てこそ芯に迫れる、ザ・演劇だった。

|プロフィール

KING&HEAVY(きんぐあんどへびー)
神戸大学演劇部自由劇場出身の飯嶋松之助・伊藤駿九郎・和田崇太郎ら俳優3人による演劇ユニット。ド直球だが遊びの効いた【150km/hのシンカー】のような王道娯楽演劇がモットー。昨年のKAVC FLAG COMPANY2019-2020では『ゴールデンエイジ』を上演。個人の活動では舞台だけでなく、TVドラマ・テーマパークショー・CM制作など多岐にわたる。