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KAVC FLAG COMPANY 2019-2020 壱劇屋『空間スペース3D』劇評|溝田幸弘

2019年12月6日(金)8日(日)

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溝田幸弘『何ともアグレッシブ』

壱劇屋を初めて見たのは「新しい生活の提案」(2017年)だった。最初から最後まで立ち止まることなく走り続ける役者たちに、良く鍛えられていると感心したのを覚えている。同年後半にあったノンバーバルの5カ月連続公演「五彩の神楽」も、見たのは最後の1本だけだが意欲的な試みだった。
そんなわけで、パフォーマーとしての基礎をしっかり磨き、ライブパフォーマンスの可能性を常に追求する劇団―という認識はあった。
とはいえ。今回の「空間スペース3D」。ここまでとは。

 客席を引っ込めてオールフラット、オールスタンディングにするとあらかじめ聞いていた。会場に入ってみると、中央と四隅にお立ち台のような舞台が5つ。観客は思い思いに、中央の舞台を取り囲むように立って開演を待つ。
 放射線防護服に身を包んだ役者が次々とホールに入ってくる。ゆっくりと中央の舞台に上ると、マイクを手に「空間スペース3D、空間スペース3D…」とリズミカルに歌い出す。気づけば四隅の舞台にも役者たち。作品が始まった。
BGMに合わせ、観客の前後左右で役者が踊る。壱劇屋の魅力の一つ、ダンスは今回もキレがいい。防護服で顔が隠れているので誰が誰か分からないが、見ているだけで楽しい。どこを見ようか、きょろきょろしていると、なんかユーチューバーが「配信します!」とか言って入ってきた(その後の公演で確認したら本当に生中継していた)。
よく分からないうちに物語が動き出す。3Dというタイトルだが、設定は4次元的というべきか。廃虚となった劇場を舞台に、異なる時空の人々がシーンごとに入れ替わり出現する。
 建物を測量する建設業者、自治会長。
 殺し屋と刑事。
 二次元と三次元に引き裂かれた夫婦。
 アンドロイドとゾンビと棋士。
 動く点Pと受験生。
などなど。
 それぞれエピソードがあり、最終的には収れんしていく…のだが、観客がそれを見守るだけなら、オールスタンディングにした意味がない。役者たちは客と客の間を自由に行き来し、舞台に上がったり下がったりする合間に、細かく観客と絡む。
舞台上で役者が「Sit down! Sit down!」と歌うから座ると、土地の所有権を主張する女社長に「不法に座り込んでる皆さん!立ってや!」と怒鳴られ、立たされたり。あるいは、登場人物が別のキャラクターの腸を引きずり出す(注:あくまでもコメディーテイストである)作業では、観客が俳優に煽られて延々と腸(=ひも)を引っ張り、ぞろぞろと列になって会場をぐるぐると周回したり。観客と俳優が一緒になって遊ぶ構成は、さながらUSJのアトラクションである。
 サービス精神もてんこ盛り。温泉愛好会の群舞などは文字通り体を張って、こちらは大学の体育会系のノリである。

 観客と俳優は、同じ空間にいても別の世界の住人だ。日常を生きる観客は劇場という非日常の空間で、物語を生きる俳優たちの世界にひととき身を浸し、日常を離れる。舞台と客席の間には、見えないけれど明確な線がある。
「空間スペース3D」は、その境界線を打ち破ろうとする試みなのか、と思った。
個人的には実験的な演劇というと、何となくアングラ的なものを連想してしまう。けれども今回の壱劇屋は、実験的な方向に手を伸ばしつつ「エンタメであろう」という姿勢を手放すことなく、いつもと同様スタイリッシュに走り抜いたように感じた。前衛性とエンタメ性の両立、とでも言うのだろうか。
その実現には、相当な苦労があったと推察する。
質の高いエンターテインメントを提供するのであれば、不確定な要素は極力排除し、物語世界を細かく作り込む作業に集中したいはず。一方で、観客は必ずしも作り手の意図通りに動くとは限らない。想定外の展開になる可能性は承知の上、物語世界をあえて物語世界で完結させずに現実世界に踏み込もうとした、ということになる。
となると役者には演技力に加え、何かあった場合にアドリブを駆使して物語世界を継続させる胆力も求められる。“攻め”の姿勢を最後まで貫いた、それだけでも好感が持てる。

 物語は、登場人物総出の”空間統一祭り”でクライマックスを迎えた。
一段落すると、登場人物たちは一斉にホールの外へ飛び出した。開け放たれたドアから外の光が入り込んでくる。その先にあるのは新しい物語空間なのか、それとも現実の世界だったのだろうか。にわかには区別がつかなかった。

|プロフィール

溝田幸弘(神戸新聞社)
1970年、大阪府堺市生まれ。神戸大大学院文学研究科修了、98年神戸新聞社入社。北播総局、社会部、文化生活部、整理部、北摂総局を経て2015年から文化部。演劇と囲碁将棋を担当する。