• 劇評
  • 演劇・ダンス

KAVC FLAG COMPANY 2019-2020 KING&HEAVY『ゴールデンエイジ』劇評|溝田幸弘

2019年10月18日(金)20日(日)

  • Archives

溝田幸弘KING & HEAVY「ゴールデンエイジ」評

前から気になっていた劇団だが、今回が初見。ストーリーは分類すれば転生もの、と言えるのだろうが、あらすじから想像していたのとは少々違った。
転生ものといえば、いったん死んだ後、願っていた人生が実現したところから物語がスタートするパターンが多い気がする。貧乏なまま恵まれず死んでいった男が、突然大富豪に生まれ変わっていた、とか。しかし、本作の神はそこまで親切ではない。主人公は生まれ変わると、夢だった野球のスター選手になってはおらず、生まれたての赤ん坊―まさに生を与えられたその瞬間に戻される。「人生の選択ミスをやり直すチャンスをやる。さあ、自分の力で夢をかなえてみせろ」というわけだ。いきなり大金持ちになっているよりも納得できるというか、親近感が湧く。
ストーリーの転がし方もいい。主人公は生き直すけれども、ちょっとした歯車の違いで望んでいたのとは違う人生に行き着く。「なんでこうなるねん!」。客席を沸かせたところで、物語はいったんストップ。神が出てきて主人公と話し合い、何が悪かったのか、どこをどうすればいいのかを検討する。そして、同様の結果に陥らないよう、主人公の親の時代、さらにその先祖の時代へと時をさかのぼる。Plan-Do-Check-Action。PDCAサイクルにのっとり、コーチ役とともに最善の結果を追求するという展開はいかにも現代的だ。

そんな物語を立体化するにあたり、KING&HEAVYは役者の肉体をフル活用していた。素通しの舞台には椅子代わりのハコが3つだけ。素っ気ない舞台の上を、真っ白な衣装の出演者3人が引っ込んでは出て休む間もなく走り回り、脇役だけでなく主人公、神といった主要な役柄までも入れ代わり立ち代わり力ずくで演じる。さすが、時速150キロのシンカー。中でも石畑達哉の迫力が印象的で、ゼェゼェいいながら舞台上で動きを止めたのには、それが演出であったとしてもなかったとしても、そらそうやわ、と笑ってしまった。 惑星ピスタチオで一世を風びしたパワーマイムを一部採用していたのも光った。笑いのクオリティーを上げていたと思う。このあたり、神戸大学演劇部自由劇場出身というのが関係あるのかないのか。いや、面白いからどっちでもいいんですが。 惜しむらくは、KAVCのホール空間は、3人だけで埋めるにはさすがに広すぎた感がある。あと1、2人俳優が加わっていたらさらに濃厚な舞台になっていたように思う。

落ちも気が利いていた。
人生の道のりは努力で変えられても、「主人公の運命だけは変えられない」。自分の運命を突きつけられた主人公は、何を生きる目標としたのか―。ラストシーンは、生物としての人間の普遍的な心理を描いているようで、爽快感があった。
もっと大勢の人に知られていい劇団だ。今後に注目していきたい。

|プロフィール

溝田幸弘
1970年、大阪府堺市生まれ。神戸大大学院文学研究科修了、98年神戸新聞社入社。北播総局、社会部、文化生活部、整理部、北摂総局を経て2015年から文化部。演劇と囲碁将棋を担当する。