|溝田幸弘|ニヤニヤと爆笑
「THE ROB CARLTON」。劇団コンセプトは「ラグビー」に「ホテル」だとか。筆者自身が高校時代にラグビー部だったこともあり、チラシを見るたび気になっていた劇団であった。ホテルのカードキーのようなチケットに、凝ってるなあと感心しながら席に向かう。
暗転とともに壮大な音楽が鳴り、さあ始まる…と思いきや、インチキ臭いひげをたくわえた村角太洋が前説で登場。「映画だと5分で終わっていたシーンを100分間に拡大してみました」などと、客席の空気をほぐして本編が始まる。
チラシにもある通り、疑惑の議員をおとり捜査で捕まえようとする捜査員たちの必死でトホホな奮闘を描く。
ジョージ(村角ダイチ)、J.J(大石英史)、サイモン(御厨亮)、バーニー(満腹満)。横文字の名前の捜査員たちが準備を進めつつ、大げさなジェスチャーでアメリカンジョークを連発する。米国人のように「WAHAHA!」と爆笑こそしないけど、ニヤニヤ笑いが止まらない。
そういえば村角は今年3月のT-worksの公演「THE Negotiation」で作・演出を務めており、その際、女優の丹下真寿美が村角作品について「爆笑させるというよりも、終始ニヤッとさせて後からジワッと来る感じ」と評していた。まさに、これぞ村角作品といえる滑り出しだ。
さて、問題のアンディ議員(伊勢村圭太)と秘書のスコット(高阪勝之)が登場すると少し雰囲気が変わる。
「捜査員2人が架空のビジネスマンになりすまし、アンディ議員に賄賂を贈る。残る2人の捜査員は別の部屋に待機し、ネット中継で状況を確認しながら後方支援に当たる」。これが当初のプランだった。ところが事前の準備はなんだったんだというぐらい、次から次へとトラブルが起こる。バレないのが不思議なほどだ。
そこでスコットの存在が光った。議員に不利益が起こらないか厳しく目を光らせる役回りを担っている。だからトラブルが起こると、まず彼の反応に全員の注意が向かう。
本作はどの登場人物も性格がしっかり特徴付けられており、そこが物語を通して安心して見ることができた要因の一つであったが、中でも〝天才〟という設定のスコットは言動が尖っていて、際立っていた。
極端な言動の人というのは、危うさとおかしさの双方をはらんでいる。他のキャラがジョークを飛ばしたり、「そんなことあるかいな!」というトラブルが起こったりするたびに「ニヤリ」とさせられるのは変わらないが、そこに〆となるスコットの言動が加わって「WAHAHA!」という爆笑が起こり始めた。爆笑はカタルシスを与えてくれる。観客をすっきりと楽しませる巧みな構成だったと思う。
議員の懐に入り込んで懐柔し、結果裏切ることになる捜査員の思いなどシリアスな場面もあったが、基本的には笑いに全振りした作品といえよう。
5年前の作品をリメークするにあたり、村角は時代設定を1970、80年代から現代に改めたという。そのため「電子機器をフル活用していればトラブルは回避できたはず」などと重箱の隅をつつくこともできるかもしれない。しかし、観劇中はストーリーの勢いがよく、そういう発想自体が起こらなかった。
つまらない脚本の場合、細かな設定の食い違いなどに気を取られて集中をそがれることも珍しくない。最後までそんなことを感じさせなかった本作。優れた喜劇だったといえるのではないか。
|プロフィール
溝田幸弘
1970年、大阪府堺市生まれ。神戸大大学院文学研究科修了、98年神戸新聞社入社。北播総局、社会部、文化生活部、整理部、北摂総局を経て2015年から文化部。演劇と囲碁将棋を担当する。